VISIBLE (60)  
今井 聖  —「街」108号より —





グラジオラス幅跳びの尻滑空す

逃げる逃げる山下清夏の雲

夏草に降りて自転車二つ折

逆光の尺蠖となり佇ち尽くす

革命頓挫のごとき深夜の撒水車

終日ボサノヴァ海の家建設中

黴臭き隙間より見る乳房かな

滝径を下りて郵便局裏へ

恩師遺せしコガタアカイエカの模型

向日葵が向日葵に肩貸してをり

蜻蛉湧く海の機嫌の良き日かな

白靴の片方流れゆく故郷

夕立を読むやうに伸び港猫

白百合の蕊の奥より悲鳴来る







VISIBLE (59)  
今井 聖  —「街」107号より —





胸像の顔隠したる青葉かな

頭に乗せし籠にもろもろ麦の秋

犬の背を容れて躑躅の影平ら

中学入試塾老鶯の声教ふ

春の鵜が要塞島に突き刺さる

夏館棺を重ねたるやうな

夏落葉厩舎一棟がらんだう

観音のうなじの見ゆるプールかな

蜂の巣の駆除の手際を厠より

窓といふ窓に父立つ夏の朝

若草に置く破れ鍋に札貼つて

片々の陰を辿りて漁港まで

夏の雨止んで濃くなる魚臭かな

唇のざらつく鯉幟の真下







VISIBLE (56)  
今井 聖  —「街」104号より —





曼珠沙華手に学校を消す呪文

吠えずなつかず木犀の下に坐す

黄のコーデュロイ名刺に陶工と

鬼灯を提げ草加から立ち通し

夜学茫々校舎炎上念じつつ

鈴虫の孵化待つ一間暮らしかな

図書館に襤褸の聖秋の虹

犬小屋の屋根の虫籠雨になる

テレピン油匂ふ月夜の蓬髪に

てつぺんの廃車はアメ車秋の雨

鶺鴒が歩く奪衣婆坐る石

収奪のあとの静かさ白コスモス

賄の丼に乗る秋刀魚かな

田刈後の闇がだんだん翁面

今日のことみな言ひ秋刀魚骨になる







VISIBLE(55)  今井 聖 —「街」103号より —

   
にこにこと怖き裸足のコーチ来る

深夜ふと膨らむ捕虫網の白

捕虫網振ると近づく軍用機

捕虫網古墳の縁を巡り来る

捕虫網民話の山に入りゆけり

捕虫網母に持たせて尿りゐる

ベルト穴一つ拡げて噴水へ

噴水前三角四角五角の顔

六階と八階は闇噴水照る

虫籠をときをり髭の出入りせる

虫籠の中に昔の笑ひ声

レースクイーンでしたと草をむしりゐる

舟小屋のやうな選対立葵

スピーカーの音割れてをり蓮の花

雀荘の補充要員アロハシャツ

守宮見ゆふくらはぎより顔上げて

パチンコの換金口の冷気かな

緑陰にゐる全員が共犯者

夏雲や上総まで犬買ひにゆく

犬と寝て起きて入道雲の中

瓜の馬また五分刈で来りけり

校外指導鬼灯を提げ帰る

仰向けの蜩に線凝集す

コインランドリー蚊遣りとボクサーと

鶏が飛ぶ一枚の刈田の幅

 
UPHOME



テーマ:詩・和歌(短歌・俳句・川柳)など - ジャンル:学問・文化・芸術

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